ボラボラ対談【人形劇グループわらしべ】
人形劇グループわらしべ(聞き手:江南市地域福祉研究会)
設立40年を超え、現在12人のメンバーが在籍している。テレビではない、ゲームではない“生の舞台”を子どもたちに届け、楽しさと感動を味わって頂けるよう努めている。市内18ヶ所の保育園をはじめ、特別支援学校、福祉施設、子ども会、子育て支援グループ等にて、年間30~40回公演を行っている。
例会の様子や進め方を教えてください
午前中に保育園での公演後、昼食を食べながら、次回の公演について話し合いをしています。今は来年予定している公演の台本を作っていて、それを基に配役、台詞直し、音楽等を考えています。話し合う時にはおやつは必須です(笑)。
今までで一番心に残った公演はなんですか
- ある聾学校の寄宿舎で公演した時のことです。私たちの公演内容を聾学校の先生が手話で通訳してくれましたが、耳の聞こえない相手に対してどのように表現すべきか悩んだことや、相手にどこまで伝わったのかということが、ずっと心に残っています。何十年も前の公演ですが・・・。
- わらしべの活動は、子ども達に良いものを見せたいという気持ちから始まっています。一時期障がい者や高齢者の施設への訪問もしていましたが、自分達が楽しいと思っていることをそのまま伝えるのが難しい方々に対して、どのように楽しいと感じていただくかが課題となりました。
- 今は子どもに対象を絞って公演を行なっていますが、以前高次脳機能障害の方向けの公演の依頼がありました。リハビリとして指を動かすことが良いと言われていたのが依頼のきっかけのようで…。普段子ども相手に行なっているようなことをしましたが、社会で働き盛りと言われる年齢の方に対して、それでよかったのか、彼らにとって適切だったのかが今でもひっかかっています。
- 「俺の手には(人形が)入らない。」と怒られたこともあったよね。
- 名古屋で公演があっても、車がない時代は電車で移動していたので、皆で手分けして荷物を運んでいました。大きい機材も多いので、それが結構大変で・・・。
- 自分の背より高い棒を運ぶ時は、その棒を当時ファンだったキムタクだと思うようにして、大事に抱えて運びました(笑)。
- 江南市内で何度も公演をしているので、小さい時に一度公演を観てくれていた子が、大きくなってもう一度観た時に覚えてくれていたこともあったよね。
- 家族が公演を観に来てくれた時に、私が踊りながら出てくると、夫と子供が同時に顔を伏せたこともありました(一同爆笑)。
- あゆみ(在宅障害者デイサービス施設)のクリスマス会で以前公演していましたが、その度に結成〇年だね!と覚えていて話しかけてくれる利用者さんがいて、それがとても嬉しかったです。
- 結成当初は市外の児童養護施設で公演をすることもあって、その子たちへのお土産のパウンドケーキや親御さんの代わりに雑巾なども作っていたこともあります。今はその市内にその役割を担ってくれる団体があると聞いています。
- 活動を始めて間もなくて準備や材料集めに大変な頃、公演を観てくれた当時の福田市長が「がんばってね。」とお気持ちをくださったことがあったんです。びっくりしたけど、私たちの苦労ややっていることを理解してくださっていると思うと、嬉しかった。やっぱりボランティアと言っても人形劇をやるためには当然ながら材料は調達する必要があるでしょう。でもお金がないから、資源ごみの収集所に行っては、傘を拾って棒にしたり、ウレタンマットを拾ってそのスポンジで人形を作ったりしていました。なんでも廃品から拾って作っていたから、昔作った人形には思いがけないものが入っていたりするかもしれない(笑)。
公演以外の取り組みはどんなことがありますか
- 年に一回の総会で役員を決めています。役員はリーダーや会計などで、それぞれの任期は3年です。
- メンバーの特質や、年間の公演の流れを踏まえて、スムーズな活動につなげるためには、「任期は3年くらいが適当だね。」とみんなで決めました。
- また、団体の活動場所として団地の集会所を使用させていただいている関係から、団地の行事(団地祭、敬老会)に参加し、焼き鳥などの模擬店を担当させていただいています。
- 他市の団体さんから人形劇に関する相談があり、わらしべがアドバイザーとなることもあります。
(聞き手)自分達だけの活動に収まらないで、他の人達にも広げていくことが、わらしべさんの良いところですよね。
ボランティアをはじめたきっかけは何ですか
- 私は人形劇をやりたいと思って始めたので、入る前はわらしべの活動がボランティアだと知りませんでした。何か活動をしようと思っていた時に、私が過去に演劇部に入っていたことを聞いたメンバーの1人から誘われて、興味を持ったことが参加のきっかけです。
- 私は最初に参加した時にメンバーから「次は〇曜日の〇時からね。」と言われて、知らない間にメンバーになっていました(笑)。
(社協)そう言われても次から参加しない選択もあったと思いますが、何が魅力だったのでしょうか?
- 次も参加しようかなと思ってもらえるように、受入れ側が考えることも重要ですよね。続かない場合は、その時その人にとって他の選択の方が魅力的だったからじゃないかな。参加した時にメンバーとの感覚・フィーリングが合うかどうかは重要だと思います。
自分たちの活動がボランティアだと思ったきっかけはなんですか
- 福祉と向き合うことになったきっかけは社協から「子ども福祉塾でわらしべが考える福祉について話をしてほしい」と依頼が来たことでした。
- 私たちはもともと、子どもたちに楽しさを伝えるために公演を行っていますが、子ども福祉塾では、将来を担う子どもたちに福祉についてどのように伝えるべきか悩み、メンバーで話し合いました。
- 福祉と関連づけるなら、ボランティアとは自分達が何かをやることで、相手に喜んでもらえたり、何かを感じてもらえたりすることかなと思っています。世間ではボランティア=奉仕という印象が強いように思いますが、そのような意識で活動をしているわけではありません。また、無料=ボランティアというわけでもないと思います。私たちも人形劇をやるためには当然材料費も必要になりますので、実費やお気持ちをいただくこともあります。
- いつもボランティアとは何だろうと悩みながら取り組んでいます。また、福祉=ボランティアと捉えると難しくなるので、逆にボランティア活動として構えない方が活動を始めやすいのかもしれません。
- 私たちの考えるボランティアとは、公演を見てくれた子ども達などにこころの栄養を与えることだと思っています。私たちは当初から子どもたちに生の公演を見せることにこだわってきましたが、ある人から、保育園でテレビを観ている時と生の人形劇を観ている時の園児の脳波を測ったら、生の劇を観ているときの脳波の方が良かったという実験内容の結果を聞き、自分達のやってきた活動が間違ってなかった・報われたという気持ちになりました。
- 1歳くらいの赤ちゃんが、約1時間の公演を集中して見てくれているのが何よりの証拠だと思います。
活動をする中で、自身や家族などの周りの人に変化はありましたか
(聞き手)堅い話になりますが、社会を構成する各主体は個人・集団(家族)・地域の三層で捉えることができます。時にはボランティア活動をしていることを「(暇だねという意味を込めて)偉いね」と言われることもありましたが、自分自身や周りの変化等で感じることはありますか?
- 私は29歳の時に活動を始め、当時3歳と5歳の息子が居ました。活動を始めたことで、色々な人と関わり、活動以外の育児等のアドバイスもしてもらえたことで自分の視界が広がり、自分の子ども以外にも目が向くようになりました。当時夫からは「わらしべに入って良かったな!」と何度も言われました。元々集中すると他のことが見えにくくなる性格だったので、育児にのみ意識が向かっていたことを心配してくれていたようです。
- 人手が足らない時は子どもも公演の手伝いをしてくれるようになりました。その子どもが成長して高校生になった時には演劇部に入りました。周りからは私がわらしべの活動に参加している影響だと言われました。1児の父になった今は自分の子ども(私の孫)にわらしべの人形劇を見せてやりたいと言っています。
- 私の子どもは舞台俳優になりました。下の子は資源ごみの日にいろんなものを拾うようになりました。結成当初お金がなかった時に材料を求めて拾いに行った親の影響だと思います(笑)。
- わらしべの活動は子どもへの影響が大きいと思います。生き生きと活動をしていることが、子どもに良い影響を与えていると感じます。
- 私の子どもはわらしべの皆さんにも育ててもらったと思っています。最近小さいお子さんが居る新メンバーが加入しましたが、他のメンバーが自然に子守をしています。自分の子どもが手を離れてしまったメンバーが多いので、小さい子に構いたいという気持ちも手伝っています(笑)。
- 影絵と人形劇の公演の練習を同時並行で行っていた時、時間がなく深夜にまで及んだ時もありましたが、その時も家族が受入れてくれました。がんばった甲斐があり、公演を見た子どもたちがとっても喜んでくれ、それがとても嬉しかったです。
(聞き手)わらしべさんは、家族を巻き込みながら活動をしている所が特徴的ですよね。家族の関わりが深く、支えがあったからこそ40年続けてこられたんでしょうね。
- 公演中の服装の変化もあります。昔は黒子(顔を覆う黒い装束)でしたが、去年からは頭には黒い帽子を被るのみで、顔出ししています。それは、プロの人形劇もそのように変化をしていることを受けて変更しました。
- わらしべがボランティアとして位置づけられることになり、自分にとってボランティアや福祉とはなんだろうと考えるようになりました。私たちはいわゆる直接介護する等の支援ではありませんが、公演を見た人に楽しんでもらい、自分たちも嬉しい気持ちになることも1つのボランティアなのかなと考えています。
- わらしべのメンバーは個性豊かな人たちばかりですが、みんな謙虚で、諍いもありません。また例えば自分の読んだ本が良かったと思うと、皆で回し読みをするなど、良い情報があると全員に共有していく所も良いところだと思います。
- 私はわらしべに入らなければ、12人分の世界を知らなかったと思っています。お陰で自分だけでは知らなかったことを知ることができ、視野が広がりました。それぞれが色んな人生・考えに触れて、お互いがいい影響を受け合ってこられたことが、わらしべの40年の歴史につながったと思います。
- 女性ばかりのグループだと、誰かが休むと他のメンバーがその人のことを悪く言ったりすることがありますが、わらしべにはそれがないので、安心して休めます(笑)。だからと言って、当たり障りのない表面的なことしか話しているわけではなく、意見も遠慮なく言いあいます。それぞれが他のメンバーを尊敬しているからこそ成り立つことだと思っています。活動歴の長い人は「若手を育てないと!」と言い、短い人は「いやいや長老組にはまだまだがんばってもらわないと!」と冗談を言い合っています(笑)。
みなさんにとって、わらしべとはどんな存在ですか
- 休みはお盆・正月のみで、それ以外は毎週練習を行っています。皆で一つの物を完成させるという目的があるので、自然と結束力も高まります。わらしべのメンバーは、家族とも友達とも違いますが、とても近く大切な存在です。仲間というか、「わらしベ」という枠組みがあるように感じています。
活動を継続したり、メンバーの和を保つために努力したこと、苦労したこと
(聞き手)質問の補足をしますと、今わらしべさんは助成金等で活動費を得ておられると思いますが、そのためには実績が必要ですよね。ただ、実績を上げるだけに注力していても活動は続きません。実績とは福祉的に考えると、(ボランティア=)ニーズにこたえることと言えます。一方で和ばかりに注力すると仲良しグループになってしまうと思います。その二つを両立していくために行なってきた取組み、配慮を教えてください。
- メンバーがお互いの人間的なものや家族に対して配慮できる環境を整えたり、無理強いをしないことや尊敬し合いお互いの良い部分を知ること・引き出すようにしているところだと思います。楽しいことも、辛いことも、苦労したことも、みんなで共有し、乗り越えてきたことが和を保つ秘訣なんだと思います。
(聞き手)わらしべさんの話をお聞きしていると、リーダーシップと同じく、メンバーシップも発揮されているように感じますね。
- 私たちは毎年新しい作品を作るようにしています。作品を作る目的の共有や一連の流れを一緒に取り組むことで、メンバーシップが生まれるのかな。
- いつも口癖のように「もっと良いものを作ろう。」と言われます。私たちは何度も同じ演目を行いますが、観る側からするとその一回限り。観てくれる方々のために、一生懸命やろう、楽しんでもらおうという思いとともに責任を感じます。そのためプロの公演を観に行くことで勉強をしたり、日々公演の振り返りを行なったりしています。子ども達に届けたいという強い思いがあるからこそ、自然と使命感、連帯感、責任感が芽生えていくのだと思います。
(聞き手)一般的にはボランティア活動は義務ではないと言われているので、そこまでの思いがあることはすごいことですよね。
- プロの公演はお金が対価ですよね。わらしべにとっては依頼してもらうこと・期待してもらうことが対価になると思っています。その期待に応えることが私たちの活動の原動力になるし、必然的に責任も伴うことだと思います。
(聞き手)わらしべさんのメンバーが責任を持って活動していることはとても素晴らしいことですね。ボランティア活動であっても人と関わる活動をする以上、責任は伴うものですよね。
(聞き手)社協等のボランティアを推進している側としては、つい「いつでもどこでも楽しく気軽に活動しましょう」という謳い文句を掲げがちです。活動を始めるきっかけとしては、良いのかもしれませんが、実際ボランティアは気楽なことばかりではないので、気楽ではなくなると辞めてしまう方も多いのが現状です。入り口と現実のギャップがあることが活動が継続しない理由の一つなのかもしれません。
(社協)お話しを聞いていると、わらしべさんは自分たちのためではなく、常に他者に目を向けていることが伝わってきます。
最後に一言ずつお願いします
- 他のボランティア団体と話をする機会が今まであまりなかったので、深い話が出来ていなかった。メンバーの高齢化で活動を終了したボランティア団体もあったので、ボランティアの今後についてなど色々と話をする機会があると良いと思っていました。
- 今日わらしべの活動について、みなさんからたくさん褒めてもらったので、これからもがんばろうと思いました。
- 自分たちでは当たり前と思っていたことに「すごい!」と反応してもらえて、ちょっと驚いたよね。
- ぜひ公演に来てください!今日ここで話したことが本当か、確かめてみてください(笑)。今年はわらしべ創立40周年ということで、オファーがあれば全部出演させていただいています!今年は北名古屋市で行われたパペットフェスタやひまわりホールアマチュアリレー公演等。パペットフェスタは、紹介がないと参加できない名誉ある大会なんですよ~。
- 初期から居るメンバーとしては、わらしべを40年続けてきたように、この先の40年も続いていってほしいと思い、若手を育てています。今回新メンバーとして若い人が入ってくれて嬉しいです。これからも子どもたちに生の人形劇を見せたいですし、わらしべを楽しみにしてくれる子どもたちがいてくれると良いなと思うので、もっともっと長く続けていきたいです。
- 社協が支援してくれるのはありがたいことだと思っています。これまで順調なことばかりではなかったですが、周りの理解や協力でここまでこられました。これから先も若い人のために、これまでに得た信用をもとに、頑張っていきたいです。
(聞き手)わらしべさんはボランティアセンター運営委員会の際にいつも「私たちはボランティア(という位置づけ)でいいの?」と言われていましたよね。確かに一度きりの催しとしての人形劇であればボランティアとは言えないかもしれません。しかし、自分→子→孫と世代を超えて一つのことを続けているわらしべさんの活動をボランティアと呼ばずしてなんと言うのかと感じています。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に「子どもの時の楽しい思い出ほど、その後の一生にとって大切で、健全で、有益なものはない。」という一節があります。子どものときに経験した楽しかった思い出を、次の世代の子ども達に伝えていける文化が、この先も続いていくことが大切なことだと思います。
次回も乞うご期待。